日本冬虫夏草の人口培養
近年では天然薬物や薬用資源として利用され医薬品資源として重要視され始めている冬虫夏草ですが菌種によって発生自体が稀なことや薬効評価や有効成分探索、希少種の保護の観点からも薬用資源として必要とされる数の確保が困難な状況にありました。 その為、我々は冬虫夏草の人口培養の研究を開始することとなりました。
冬虫夏草は虫草菌(コルジセプス)が主に虫や地下生菌である土団子菌などに寄生することで栄養分を吸収しながら菌糸を育て、キノコを形成する子嚢菌です。
人工培養ときけば虫草菌を寄主昆虫で培養する方法が思い当たるでしょうが、虫体を用いた培養方法は薬用とする際の安全面に虫体成分による問題でる可能性が否定しきれないことや、薬効にも虫体によるロット差が生じる可能性もあった為に虫体を使用しない培養系の確立が必要となったのです。
過去には虫体を用いない培養法により野外と同じ子嚢殻性子座を形成させた報告が複数あり、それらは一連のコルジセプス属菌を安定して培養する上では有用な方法でした。
ですが、その実験条件ではサナギタケやウスキサナギタケの培養を行っても発生する子実体は全て※分生子柄束であり、子嚢殻性子座の子実体は形成されず冬虫夏草培養系の再現性に乏しかったのです。
そこで我々は薬用として利用価値の高いハナサナギタケ等のコルジセプス属菌を採取し虫体成分を含まない培地で子実体を形成させる実験を行うことで、野外と同じ形態をもった分生子柄束および子嚢殻性子座を形成させることに世界で初めて成功しました。
トンボ(昆虫) |
クモ(節足動物)
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土団子(地下性菌)
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多くの有効成分は完全世代の子実体が成熟する過程で産出される為、医薬品資源として冬虫夏草を利用する際には子嚢殻性子座の子実体の形成は不可欠なものとなっておりましたが、虫体成分のない培養法は当時存在しませんでした。
日本冬虫夏草二次代謝産物の重要性
我々の研究論文、学会発表、特許文献データや製品は日本冬虫夏草(二次代謝産物)を使用しています。
生物の体内で酵素や補酵素の作用により物質を合成するときの化学反応を代謝といいます。
二次代謝とは生物が生殖やエネルギー代謝、進化などの生物の共通の生命現象に直接必要としない物質を生合成することをいい、できた天然物を二次代謝産物といいます。
(日本冬虫夏草の二次代謝産物を作るのに約2年という長い時間がかかります)
二次代謝産物はアミノ酸やアセチルCoAなど限られた中間物質を材料にして生合成され、一個の植物の中でも莫大な数の物質を生成します。
これらは生成した生物自体に役割不明なものですが、人類にとっては天然由来の医薬品や新薬へのリード化合物などとして重要な役割を担っており、現在の臨床現場で用いられている抗がん剤の多くが放線菌由来の二次代謝産物をリード化合物として開発されております。