がん(癌)部位別情報

◆甲状腺がん

甲状腺は頸部の正面、喉頭の下に続く気管を取り巻くように位置します。
蝶が羽を広げたような形でサイロキシンという細胞の新陳代謝に関与するホルモンを分泌しています。

甲状腺からは男女に関わらず一定量のホルモンが分泌されていますが、これが過剰になったり不足すると体調不良の原因になります。
脳の下垂体から出る甲状腺刺激ホルモンが甲状腺ホルモンの分泌バランスを調整しています。

甲状腺がんは「乳頭がん」「濾胞がん」「髄様がん」「未分化がん」の4つのタイプがあり、それぞれ性質が異なります。

乳頭がんは甲状腺がんのうち9割を占めるがんで、40-50歳代の女性に多く発生するがんです。
乳頭がんの9割は成長の遅い低危険度がんで、遠隔転移の心配も少ないですが、1割程は遠隔転移や浸潤をする悪性度の高い高危険度がんになります。

乳頭がんはリンパ節に度々転移をしますが、予後には殆ど関与しないとされています。
50歳未満で低危険度群の甲状腺乳頭がんの場合の予後は10年生存率で95%以上、20年生存率でも90%以上ととても高くほとんど乳頭がんで命を落すという可能性はないと考えられます。

しかし、高危険度の乳頭がんの場合は50歳未満でも遠隔転移しやすく、がん細胞も増大しやすいため10年生存率は7割程度となります。

濾胞がんは甲状腺がんのうち5%程度を占めるがんで、やはり40歳-50歳代の女性に多く発生します。
性質は基本的におとなしいですが、血流に乗って肺や骨などに遠隔転移をするケースがあり、この場合は予後は不良となります。

遠隔転移が無い場合には乳頭がんと同様に良好な生存率になります。

髄様がんは甲状腺がんの1-2%程度の稀ながんで、他の甲状腺がんとは異なり、カルシウムの代謝に関わるホルモンを分泌する甲状腺傍濾胞細胞が、がん化して起こります。
半数近くが遺伝的体質によるもので親族に同様の患者がいる場合注意が必要です。
髄様がんは同時に副腎の褐色細胞腫や副甲状腺の過形成などの病気を合併することがあり、乳頭がんや濾胞がんと比べると予後は悪いですが、未分化がんよりは良いケースが多いです。

リンパ節への転移があると予後は悪くなり、肺や肝臓へ転移すると治療は難しくなり、5年生存率は7割程度とされています。

未分化がんは甲状腺がんの2-3%程度と稀ながんですが、他の甲状腺がんとは比較にならないほど悪性度が高く、極めて急速にがんは進行し予後1年以上の生存でさえ少ないといわれています。

甲状腺がんの検査

甲状腺がんの検査の基本は触診になります。
触診をすることで腫瘍の有無や形、数などを判断していきます。
これにより甲状腺がんが疑われる場合には続いて超音波検査や細胞診が行われます。


  • 超音波検査
  • 放射線の被爆なしに甲状腺の大きさや内部の様子、リンパ節腫大の様子を痛みなく診断して5ミリ以下の小さながん細胞を発見することができます。

  • 穿刺細胞診
  • 注射針でがんが疑われる部分の細胞を採取し、顕微鏡で確認する方法で、がんの確定診断ができます。

  • シンチグラフィー
  • シンチグラムというのは、放射性物質を用いて、体内のその物質に親和性のある組織への集積を調べる方法のひとつで甲状腺がんの性質や遠隔転移の検査ができます。
    ガリウム、テクネシウム、ヨードなどの種類があります。

  • 血液検査
  • 髄様がんの場合は血液中のカルシトニンやCEAなどの腫瘍マーカーを利用した血液検査が可能です。

  • CEA 基準値 5.0ng/ml以下
  • CEAは甲状腺がん(髄様がん)、食道癌や胃がん、大腸がんなどの消化器がん、胆道がん、膵がん、肺がんなどのさまざまな臓器由来のがん細胞で分泌されるため、診断補助及び術後・治療後の経過観察の指標として有用性が認められています。

  • カルシトニン 基準値 15-86pg/ml以下
  • 甲状腺から分泌されるペプチドホルモンで、血中カルシウム濃度を低下させる作用があります。
    甲状腺髄様がんで値は高くなります。

    甲状腺がんの治療

    甲状腺がんの治療方法としては外科療法、放射線療法・放射性ヨード療法、ホルモン療法、化学療法の4種類の治療方法があります。
    未分化がんを除く他の甲状腺がんでは外科療法が一般的な治療方法になります。

  • 外科療法
  • 外科療法は甲状腺がんの治療の基本となるもので最も確実な治療法になります。
    甲状腺は左葉と右葉、その中心にある峡部に分けられます。
    がんの拡がり具合によって切除範囲が決まり次の方法があります。

  • 葉切除術
  • 甲状腺は蝶が羽を広げたように二葉からできていますが、このうちがんが認められた片側だけを切除する方法です。
    また片側のリンパ節も同時に切除しがんがリンパ節に転移しているかの検査(生検)をします。

  • 甲状腺亜全摘術
  • 少しの部分を残して大部分の甲状腺を切除した後リンパ節の検査をする方法です。

  • 甲状腺全摘術
  • 甲状腺全体を摘出する方法です。

  • リンパ節郭清術
  • がんが転移している頸部リンパ節を切除する方法です。
    他のがんと違い甲状腺がんのリンパ節転移は予後には殆ど影響がありません。

  • 放射性ヨード療法・アイソトープ療法
  • 放射性ヨード療法は甲状腺がん特有の治療方法で、甲状腺が体内でヨードを取り込む性質があることを応用したものです。
    甲状腺全摘出後に、放射能付けたヨードに放射能内服すると、甲状腺由来の部分とその遠隔転移部位に取り込まれる可能性が高く、がん細胞の壊死が期待できます。

    乳頭がんの治療

    乳頭がんの治療の中心は手術になりますが、基本的な方針は2つにわかれます。
    一つ目は乳頭がんの広がり具合に応じてできるだけ狭い範囲を切除し、術後の補助療法などを行わない治療方法です。
    二つ目は乳頭がんの状態に関わらず甲状腺の全摘出を行い、術後には放射性ヨードと甲状腺ホルモン剤による治療を行うというものです。
    日本では上記の方法が行われることが多いです。
    通常医療はEBMという根拠あるデータに基づいて選択されますが、乳頭がんの場合にはどの治療方法でも予後がいい例が多いため施設によって治療方法が変わる場合があります。
    下記に全摘出と葉切除・亜全摘術のメリット、デメリットを簡単にまとめます。

      メリット デメリット
    全摘出 ・術後、放射性ヨードにより再発検査、治療が容易
    ・血中サイログロブリン値による再発の確認が容易
    ・乳頭がんに多い多発微小病巣を残す可能性が低い
    ・医師の経験などにより術後の合併症発生の頻度が高い
    ・生涯にわたり甲状腺ホルモン剤の内服が必要になる
    葉切除・亜全摘 ・反回神経麻痺や副甲状腺機能低下などの合併症の頻度が低い
    ・甲状腺ホルモンの補充が必要にならない
    ・放射性ヨード治療を行う場合、改めて残存甲状腺を切除する必要がある
    ・残った甲状腺にちょっとした変化があるだけで血中サイログロブリン値が変動してしまうため再発のマーカーとならない
    ・残した甲状腺に微小な乳頭がんが残る可能性がある

    高危険度群乳頭がんの治療

    高危険度群乳頭がんで肺や骨に遠隔転移のない場合は低危険度群乳頭がんと同様の治療を行い、遠隔転移が確認された場合は一般的に甲状腺の全摘出後、放射性ヨードによる治療を行った後標準療法に移行していきます。
    また、喉頭や食道、咽頭などに浸潤している場合にはその部分も切除することになります。


  • 濾胞がん
  • 濾胞がんの場合は治療の中心は外科手術になります。
    濾胞がんは乳頭がんと比較するとリンパ節転移や気管や食道などへ直接浸潤することは少ないのですが、一方で血液を介して肺や骨などに遠隔転移する可能性が高いです。 そのため濾胞がんの場合、甲状腺全摘出が行われることが多いのですが、前述したように術後のQOL(生活の質)を損なう合併症のリスクが高いため、遠隔転移しない可能性が高い濾胞がんと診断された場合には全摘出を行わない場合もあります。

  • 髄様がん
  • 髄様がんの場合も治療は手術が中心となります。甲状腺の全摘出とリンパ節郭清を行います。 遠隔転移が見られる場合には化学療法などが行われますが、予後は乳頭がんや濾胞がんなどと比較すると悪くなります。

  • 未分化がん
  • 未分化がんは予後が悪いため確立された治療方法はないのが現状です。
    手術や放射線、化学療法などを集中的に行った患者の一部に長期生存した例がある程度で、全身への転移が認められた場合は医学的治療法はありません。

    積極的な治療がQOLを損ない、余命までも短縮してしまう場合があるため、対処療法だけを行うことも選択肢の一つになります。

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