がん(癌)部位別情報

◆胃がん(胃癌,スキルス胃癌)

胃がんは日本人にもっとも多く発症するがんであり、40代から発症率が上昇していきます。
以前は死亡率一位だった胃がんですが、近年では健康診断での早期発見確率の向上によって徐々に死亡率が低下しており、1998年には肺がんが死亡率一位になりました。

粘膜下層までの胃がんを早期胃がん、筋層まで達した胃がんは進行胃がんとなります。

胃がんは基本的に胃の表面に異常が現れ、健康診断などで発見しやすく進行していなければ9割以上が完治しますが、スキルス胃がんの場合は胃壁の中を拡がって進行するため発見が難しく、進行も早いため早期発見は難しくなっています。

胃の仕組み

胃は食道から送られてきた食べ物をしばらくの間とどめ、胃液で溶かして少しずつ十二指腸へ送る役割があります。

食道からの入り口部分を噴門部、胃の中心部分を体部、十二指腸へ続く出口部分を幽門部と呼びます。

胃壁は5つの層に分けられ、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層です。

胃がんの原因

胃がん細胞は多くの場合、粘膜内の分泌細胞や分泌液の導管部分の細胞から発生します。

胃に炎症が起こると胃の粘膜が腸上皮化生と呼ばれる粘膜に置き換わりますが、この粘膜はがん化しやすいため、慢性的な胃炎を起こす全ての要因が胃がんの原因になりえます。

塩分過多やタバコ、焼肉や焼き魚のおこげ、野菜や漬物、飲料水に含まれる亜硝酸などは胃炎の原因になります。
みそやしょうゆなどを好んで食べる日本人は塩分を多く取る傾向があるため注意が必要になります。
50歳以上の日本人の8割以上が保菌しているヘリコバクター・ピロリと呼ばれる細菌も慢性の胃炎や胃潰瘍を起こして胃がんの原因のひとつになっていることも分かっています。

胃がんの症状

早期胃がんの場合は特徴的な症状はほとんどありません。

胃がん患者の多くは胃炎や胃潰瘍が出来ているため「胸焼け」「胃のむかつき」「消化不良」「膨満感」「食欲不振」といった症状が現れる場合があります。

症状が進行すると痛みや出血「食べ物が喉を通りにくい」「体重減少」「貧血」などの症状が現れます。

胃がんの診断

胃がんの検診方法は、X線検査から内視鏡検査を行うことが一般的ですが、最初から内視鏡検査を施行する場合もございます。
X線検査の検診は内視鏡検査と比べて費用が安く苦痛も感じにくいため行いやすいですが診断精度面で劣り、X線検査を毎年受けていても胃がんが進行がんが進行した状態で発見される場合もあります。

X線検査では、二重造影法という造影剤(バリウム)と発泡剤を飲んで、様々な角度からX線撮影を行う検査が行われるのが一般的です。
この検査ではスキルス性胃がん以外の場合は5mm程度のできものから、がん細胞を発見することができます。

内視鏡検査は、ガストロスコープという先端にレンズの付いた細い管(内視鏡)を口から胃の中に送り込み、胃の粘膜を直接観察する検査です。
費用が高く苦痛を伴いますが、高精度で胃がんを発見することができるため、胃がんが疑われる際に行われます。

胃がんと診断された後は粘膜下層より深い部分に薄く拡がるスキルス胃がんの浸潤の範囲を調べるために超音波内視鏡を用いたり、 周辺臓器への浸潤度を調べるために、CT検査や腹部超音波検査を行います。

胃がんの場合、血液中の腫瘍マーカーを検査します。
腫瘍マーカーだけでがんと診断することはできませんが、治療後の経過を見るための目安として利用します。

以下は胃がんの検査に使用される腫瘍マーカーの基準値です。(施設によっては基準値が異なる場合があります)。

  • CEA 基準値 5.0ng/ml以下
  • BFP 基準値 75ng/ml以下
  • NCC-ST-439 基準値 7.0U/ml以下
  • CA72-4 基準値 4U/ml以下
  • CA19-9 基準値 37U/ml以下
  • 胃がん(胃癌)の治療

    胃がん治療は可能であれば外科療法を行い、手術が困難な場合や術後は化学療法を行っていきます。 外科療法の方法や可否はがんの浸潤度や転移の有無など(病期)から判断されます。

    胃がんの病期 ⅠA期

    がん細胞が粘膜にのみ限局しているか粘膜下層まで浸潤しているが、リンパ節転移がない状態。

    ⅠB期

    がん細胞が粘膜にのみ限局しているか粘膜下層まで浸潤しており、胃に接したリンパ節への転移も認められる状態。
    または、筋層まで浸潤しているが、リンパ節転移がない状態。

    Ⅱ期

    がん細胞が筋層まで浸潤していて、胃に接したリンパ節への転移も認められる状態。
    または、胃の筋層を超えて漿膜まで達しているがリンパ節転移がない状態。

    Ⅲa期

    がん細胞が胃の筋層まで浸潤していて、第二群とよばれる胃に必要な血液を送る血管に沿ったリンパ節に転移が認められる状態。
    または、がんは胃の筋層を超えて漿膜まで達しており、胃に接したリンパ節への転移も認められる状態。
    または、がんは胃の漿膜を超えて多臓器に浸潤しているが、リンパ節転移がない状態。

    Ⅲb期

    がん細胞が胃の筋層を超えて漿膜まで達しており、第二群リンパ節に転移が認められる状態。
    または、がんは胃の漿膜を超えて多臓器に浸潤していて胃に接したリンパ節への転移も認められる状態。

    Ⅳ期

    第三群と呼ばれる胃を3重に取り巻くリンパ節のうちもっとも外側に位置するリンパ節までがんが転移した状態。
    または、がんは胃の漿膜を超えて多臓器に浸潤していて第二群リンパ節に転移が認められる状態。または、肝臓や肺、腹膜などに遠隔転移がある状態。

    内視鏡的治療

    リンパ節転移の可能性が殆どなく下記の条件を満たし切除可能位置にある早期胃がんは内視鏡的による切除が可能です。

  • 分化型がん
  • 粘膜内がん
  • 病巣内に潰瘍または潰瘍瘢痕(はんこん)がない
  • 腫瘍の大きさが2cm以下
  • 高齢などで開腹手術が難しい場合は、条件を満たさなくても行われる場合があります。

    一部の施設ではITナイフという器具を使って切除する方法があり、通常の内視鏡的粘膜切除術よりも大きな胃がんも切除することができます。

    外科手術(縮小手術)

    内視鏡的治療の対象にはならないが胃の2/3以上を切除する手術は必要ないと判断された場合には、胃やリンパ節の切除範囲を限定した縮小手術が行われます。

    噴門部や幽門部を温存したり、神経や大網という胃を覆う脂肪組織を切除せずに胃の機能を可能な限り残そうとする手術です。

    縮小手術は胃がん手術後に起こりやすい合併症のリスクが抑えながら患者の過剰なQOLの低下を防ぐことができます。

    外科手術(定型手術)

    定型手術は症状が進行していた場合に行われ、胃の2/3以上の範囲を切除する胃がんでは標準的な治療方法です。

    がん細胞が粘膜下層よりも深く浸潤している場合はリンパ節に転移している可能性があるため1群と2群のリンパ節も同時に切除します。
    進行状況によっては胃の全摘出手術が行われる場合もあります。

    外科手術(拡大手術)

    胃がんが進行して他の臓器に浸潤や遠隔転移していたり2群、3群のリンパ節に転移がある場合は胃だけではなく膵臓や脾臓、胆管、大腸の一部を切除する拡大手術を行う場合があります。

    化学療法(抗がん剤)

    遠隔転移などで外科療法で切除しきれない場合や、手術後にがんが再発した場合には化学療法(抗がん剤)による治療を行います。
    がん細胞が増大している場合は手術前に化学療法を用いてがん細胞を小さくしてから外科手術を行う場合があります。

    胃がんの手術後に行われる補助化学療法(再発予防のために抗がん剤を使うなど)は効果の有無がはっきりとしていないため、胃癌学会のガイドラインでは推奨すべき術後補助化学療法は無いとしています。

    特にステージがIA,IBであった場合とII期でもがんが胃の粘膜層に限局しているか粘膜下層までしか達していない場合(これをT1と呼びます)には術後の補助化学療法を行うべきではないとしています。

    現在Ⅱ期、ⅢA期、ⅢB期の胃がんの患者さんを対象として経口抗がん剤を用いて臨床試験が行われています。

    放射線療法

    胃がんの場合、放射線療法は効果は殆どなく一般的には行われることはありませんが、食べ物の通りをよくしたり痛みを取り除く目的で行われる場合があります。

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