子宮体部がん
子宮は女性の生殖臓器であり、骨盤の中央に位置しています。
子宮の出口付近(膣に近い部分)を子宮頚部、子宮の上部、袋の部分を子宮体部と呼び、それぞれの部位に生じるがんを子宮頚部がん(子宮頸がん)、子宮体部がん(子宮体がん)とわけられます。
子宮体部がんの発生する率は子宮頚部がんに比べて少なく、以前は10%未満でしたが最近は子宮体部がんの患者さんが増加傾向にあり子宮がん全体の20-30%程度になってきました。
これは食生活の欧米化により初経が早く、閉経は遅くなり、未婚の女性が増え出産の機会が減ったことで子宮体がんの発症原因であるエストロゲンを分泌、産生量が増加したことが関与してると考えられます。
このため、特に都心部で生活する女性で発生する割合が高くなっており、ライフスタイルと発症の関係性が大きいがんです。
子宮体がんは40歳代から増え始め50歳-60歳代で最も多く、閉経期前後から閉経期以降で比較的早い時期の疾患であることがわかります。
子宮体がんの原因
子宮体がんは、閉経後の女性、未婚の女性、妊娠・出産の経験がないまたは少ない女性、動物性脂肪を好む肥満体の女性に多く見られます。
また、これらが当てはまる女性は同時に乳がんの発生率も高くなることが分かっています。
乳がん治療に使われるタモキシフェンというホルモン剤を長期間使っている方や女性ホルモンのエストロゲンの産生量が増加すると子宮体がんになる確率が上昇します。
閉経後の子宮体がん
閉経後も副腎から分泌されるアンドロゲンという男性ホルモンが脂肪組織に豊富に含まれるアロマターゼという酵素の働きによりエストロゲンに変換されます。
そのため閉経後は肥満であることが子宮体がん発生のリスクを高める要因になります。
子宮体がんの症状
子宮体がんも他のがんと同様に治癒を目指すならば早期の発見と治療が大切です。
子宮体がんは前がん状態や比較的早期の病期から不正出血の症状が確認できます。
従って「月経以外におかしな出血が長く続く」「閉経期のころに月経の上がりが悪い」「閉経後に不正出血がある」といった場合は、子宮体がんを疑う必要があります。
他に、排尿痛または排尿困難、性交時痛、骨盤領域の痛みなどの症状が現れることがあります。
これらの症状が見られた場合には産婦人科で検査を受けることができます。
なお、集団検診で行う「子宮がん検診」は通常、子宮頚部がんの検診を行うため、子宮体部がんの症状に当てはまる方は子宮体部がんの検診を受ける必要があります。
子宮体がんの診断
子宮体がんの細胞診は、子宮体部に細い器具を挿入して子宮内膜の細胞を採取し顕微鏡で調べる検査になります。
閉経後の萎縮によって子宮の入り口から内部までの通り道が細くなっていると,器具が入りにくくなっていることがあります。
このような場合は,多少の痛みを伴いますが子宮の入り口を少し拡げる処置をしてから子宮内膜の細胞を取ります。
細胞診の検査結果は5段階(クラスI-クラスV)に分けられます。
クラスⅠ, Ⅱは正常を、Ⅲは子宮内膜増殖症を、Ⅳ、Ⅴはがんをそれぞれ想定してします。
細胞診でがんが疑われる場合には「組織診」が必要となります。
組織診は子宮内膜の組織をキューレットと呼ばれる細い金属棒の先に小さな爪のある道具で採取し、顕微鏡で検査します。
少し痛みがあり、場合によっては出血が数日続くこともあるようです。
直腸診は膣の中に指を入れる内診や肛門に指を入れて調べる直腸診を行い、がんの拡がり具合を調べる検査方法です。
子宮鏡という内視鏡の一種を子宮内部に入れて直接見る場合もあります。
組織診でがんと診断された場合には、がんの大きさやがんの拡がり具合、深さ、周辺臓器やリンパ節への転移の有無を調べるために画像検査が行われます。
体に超音波を発信し、組織に当たって反射してきた音波を捉えて画像を得る検査です。
超音波検査には腹部に超音波発信器を当てて検査する腹部エコーと膣の中に発信器を入れて検査する経膣エコーがあり、子宮体がんの場合には経膣エコーが中心となります。
閉経後に子宮出口が塞がり細胞診や組織診が難しい人でも超音波検査は有効です。
下記に子宮体がんの検査に使用される血液検査と基準値を示します。
基準値は施設によって異なる場合があります。
また、これらの数値は子宮体がん以外の病気でも高くなることがありますので、目安としてお考え下さい。
CA125は主に卵巣がんや子宮体部がんに有効な腫瘍マーカーで、他に子宮内膜症の診断にも使われます。
子宮体がんの治療
子宮体がんの治療には「外科療法」と「ホルモン療法」「化学療法」「放射線療法」があります。
治療方法は、がんの進み具合(病期)やがんの部位、患者さんの年齢、合併症の有無などから判断されます。
子宮体がんの病期(ステージ)はがんの深さや転移の有無などによって分類されます。
0期 |
子宮内膜に異型性と呼ばれる将来的にがんになる可能性が高い細胞が見られる状態(子宮内膜異型増殖症) |
---|---|
Ia期 |
がん細胞が子宮体部の内幕に留まり限局している状態 |
Ib期 |
がん細胞の浸潤が子宮体部の筋層の1/2以内に留まり限局している状態 |
Ic期 |
がん細胞の浸潤が子宮体部の筋層の1/2以内を超えており限局している状態 |
Ⅱa期 |
がん細胞が子宮体部を超えて子宮頚部まで浸潤しており、子宮頚部の浸潤が粘膜層に収まっている状態 |
Ⅱb期 |
がん細胞が子宮体部を超えて子宮頚部まで浸潤しており、子宮頚部の浸潤が粘膜層を超えている状態 |
Ⅲa期 |
がん細胞が骨盤の腹膜や卵巣卵管などの子宮外まで浸潤しているが骨盤領域以内に収まっている、もしくは腹水の中にがん細胞が認められる状態 |
Ⅲb期 |
がん細胞が子宮外まで浸潤しており膣壁に浸潤が見られる状態 |
Ⅲc期 |
>がん細胞が骨盤の腹膜や卵巣卵管などの子宮外まで浸潤しているが骨盤領域以内に収まっている骨盤領域以内に収まっている、もしくは基靭帯に浸潤が見られる状態 |
Ⅳa期 |
がん細胞が膀胱や腸の内腔の粘膜まで浸潤している状態 |
Ⅳb期 |
がん細胞が骨盤を超えて遠隔臓器にまで浸潤している、もしくは腹腔内や鼠径部のリンパ節にまで浸潤が見られる状態 |
外科手術
子宮体がんの治療方法は子宮を摘出する手術が中心となります。
しかし、0期の内膜異型増殖症や早期がんに対しては患者さんに妊娠・出産の希望がある場合には子宮を残してホルモン療法を行うことがあります。
単純子宮全摘出
内膜異型増殖症やIa期までの早期がんの場合には子宮、卵巣、卵管、場合によってはがん増殖の原因となるホルモンを分泌する卵巣も一緒に摘出する単純子宮全摘出術が行われます。
開腹して行う方法(腹式)と、膣から摘出を行う方法(膣式)がありますが、腹式の方が確実性が高いため通常は腹式となりますが、子宮内膜異型増殖症の場合には膣式で行われることもあります。
膣式は腹式より傷跡が小さく、術後の開腹も早くなるメリットがあります。
拡大子宮全摘出
Ⅰ期、Ⅱ期の子宮体がんが適応になる手術で、子宮とともに周囲の組織や膣の一部などを切除します。
骨盤内や腹部大動脈周囲のリンパ節切除(郭清)を行うこともあります。
広汎子宮全摘出
Ⅱ期の子宮体がんに適応される手術です。子宮とともに膣や卵巣、卵管など周囲の組織も広い範囲で切除します。
がんがリンパ節にも転移している危険性が高いので骨盤内のリンパ節の切除も同時に行います。
場合によっては腹部大動脈周囲のリンパ節切除も行います。
ホルモン療法
ホルモン療法は、子宮内膜異形増殖症やIa期などの早期がんで妊娠・出産の希望がある若い女性の場合に行います。
基本的には子宮体がんの増殖や転移を抑える作用のある、黄体ホルモン(プロゲステロン)薬を飲みます。
ホルモン療法を行う際には子宮内膜を全て掻き出す子宮内膜前面掻爬が必要になります。
放射線療法
放射線療法は高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺す治療方法です。
子宮体がんではⅢ-Ⅳ期で手術ができない場合、または再発した場合などに行われます。
放射線は体外から放射線を照射する外照射と子宮内に放射線源を入れて照射する腔内照射があり、組み合わせて行うこともあります。
放射線単独の治療は、放射線治療を希望される場合や、高年齢あるいは他の病気のために手術の行えない場合、病気の拡がりのため手術を行うことが困難な場合(Ⅲ/Ⅳ期の一部)などに用いられます。
手術後に放射線療法を行うのは、リンパ節転移を認めた場合、病変が子宮の壁に深く浸潤していた場合、腟壁に浸潤していた場合などがあります。
化学療法
遠隔転移などのために外科療法で切除しきれない場合や、がんが子宮外に拡がっている場合(Ⅲ期,Ⅳ期)、手術後にがんが再発した場合は化学療法を行います。
使用される抗がん剤としては「シスプラチン(他にランダ、ブリプラチン)+ドキソルビシン=アドリアシン+シクロホスファミド=エンドキサン」が一般的です。